AIの活用により、開発期間の大幅な短縮やコスト削減、成功確率の向上が期待される創薬の現場。その最前線で今、NECは研究機関と製薬企業と共に、新たながん治療ワクチンの創製に挑んでいます。薬を待つ患者さんのため、ビジネス、免疫学、ITという異なる専門性を超えて連携する3人が、チーム一体で社会課題に取り組むやりがいを語ります。
研究機関・製薬企業・NECが集結。三者の強みを活かして挑む、がん治療ワクチンの創製

がん専門の研究機関と、高い創薬力を誇る製薬企業、そして独自にAI技術を開発するNEC。それぞれに異なる強みを持つ三者は、共通ネオアンチゲンを標的とした新たながん治療ワクチンの創製に向けて共同研究を進めています。
ネオアンチゲンとは、がん細胞の表面に現れるがん特有の目印のようなものです。がん治療ワクチンによってこの目印を患者さん自身の免疫細胞に教え込むことで、正常な細胞を傷つけることなく、がん細胞だけを識別して攻撃することが期待されています。
NECではすでに、国内外のパートナーをはじめ、欧米の拠点や子会社と連携したグローバル体制のもと、患者さん一人ひとりのネオアンチゲンを標的とする個別化がんワクチンの臨床試験を実施。今回の共同研究ではその知見を土台に、複数の患者さんに共通するネオアンチゲンを見つけ出し、標的とするワクチンの実現をめざしています。
Saori T.:共同研究においてNECが担うのは、独自のAI技術を用いてワクチンの候補となる共通ネオアンチゲンを予測する役割です。その特徴は、研究機関から提供される患者さんの臨床データと紐づいた質の高い全ゲノム情報等を活用し、「ダークゲノム」と呼ばれる領域にまで探索の範囲を広げていることです。
これは人間のDNAのうち、機能が十分に解明されてこなかった領域を指します。そこにAI技術を用いることで、従来のネオアンチゲンに加え、ダークゲノム由来の新たながん特有の目印(クリプティック抗原)も予測します。
その予測結果を製薬企業の高度な実験モデルで評価し、臨床試験に進められる開発候補品を見出していくことが共同研究の狙いです。私はこのプロジェクトにおいて、ビジネス面の検討や社内外のステークホルダーとの合意形成および意思決定の推進、契約交渉、そしてプロジェクト全体の進行管理を担当しています。
金融機関で海外向けの協調融資業務などに従事した後、2018年にNECにキャリア入社したSaori T.。グローバル事業推進本部を経て、2023年に自らの希望で現在のAI創薬統括部に異動しました。
Saori T.:異動のきっかけは、前の部署で、現在所属する組織が推進していたCEPI(感染症流行への備えを目的として、ワクチン開発を支援する国際的なパートナーシップ)とのプロジェクトに、国際機関対応の担当者として関わったことです。そこで、NECがグローバル体制で最先端のAI創薬を推進していることを知り、大きな将来性を感じました。専門外ではありましたが、「ぜひこの仕事に挑戦したい」と考え、異動を希望しました。
創薬は、これまで治療の選択肢が限られていた患者さんに新たな薬を届けられる可能性のある、社会的意義の大きな仕事です。私はプロジェクトマネジメント担当として、その一端を担えることに大きなやりがいを感じています。
Saoriと同じチームで、AI創薬の基盤となるシステム構築を担うYuki T.。大学院で情報科学の修士号を取得した後、2016年にNECに新卒入社しました。
Yuki T.:入社後はセキュリティ関連のシステムの開発・運用に2年ほど携わり、社内公募で現在の部署に異動しました。異動の理由は、AI創薬という社会に貢献できる新規事業の立ち上げに携わり、技術者として成長したいと考えたからです。現在は、国内外のメンバーと連携しながら、大量のゲノムデータをもとにがん治療ワクチンの候補を自動で予測・抽出する大規模システムの設計から運用までをリードしています。
NECでは早くからAI技術による創薬研究に取り組み、1990年代には機械学習を用いたペプチドの結合予測技術の開発を進めていました。この研究開発の流れがネオアンチゲン予測にもつながっています。そして現在に至るまでに、創薬向けAI技術を臨床現場で適用できるレベルへと発展させてきました。
さらに近年は、ゲノムデータを集積する仕組みが世界的に整備され、膨大なデータから新たな創薬ターゲットを見つけられる可能性が高まっています。こうした背景のもと、私たちは独自に開発したAI技術や大規模計算技術を活用し、がん治療ワクチンの創製に取り組んでいます。
Yukiが構築したAIシステムを、免疫学の知見と結びつけ、臨床現場へと橋渡しするトランスレーショナルリサーチを担うDaiki M.。大学院で博士号を取得した後、フランスと日本の大学で免疫学の研究に従事し、2024年にNECにキャリア入社しました。
Daiki M.:私はこれまで国内外の大学で、ワクチンによってどう免疫が活性化されるかという基礎研究に一貫して携わってきました。その中で、自身の探究心を満たす研究から一歩踏み出し、培った知見を社会の役に立てたいと考えたことが転職のきっかけです。次のフィールドを探していたところ、IT企業であるNECがAIを使った最先端の創薬に取り組んでいることを知り、自身の専門性を新たな領域で活かせる好機だと感じて入社しました。
現在は、パートナーである研究機関や製薬企業の方々と生物学的な観点から協議を重ねつつ、その内容をYukiさんたち技術開発チームが理解しやすいようにフィードバックする橋渡し役としてプロジェクトを推進しています。それと並行して、がん細胞を攻撃するT細胞の反応性を高めるAI技術の開発にも、免疫学の知見を用いて取り組んでいます。
一人ひとりの専門性を、チームの力に。領域や国籍を超えて推進するAI創薬の現場

異なるバックグラウンドを活かし、チーム一体でAI創薬に取り組む3人。プロジェクトマネジメントを担うSaoriは、メンバー同士のシナジーを最大化することを意識しています。
Saori T.:Daikiさんのサイエンスチーム、Yukiさんの技術開発チームが、それぞれの業務に集中できる環境をつくることも私の重要な役割です。多様な領域のプロフェッショナルが集まるプロジェクトだからこそ、課題が生じた際には関係者と連携しながら論点を整理し、研究が円滑に進むよう支援することを心がけています。
サイエンスと技術の領域を超えて連携しているDaikiとYuki。専門性が違うからこそ、互いに歩み寄る姿勢を大切にしています。
Daiki M.:共同研究先との議論の中で、新たなテーマや検討事項が出てきた際には、まず生物学的な観点からどう対応できるかを考えます。その上で、Yukiさんたち技術開発チームと議論を重ね、お互いの専門的な視点をすり合わせながら最適なアプローチを模索しています。
そうして導き出したアプローチを共同研究先と議論する際には、AIの可能性や強みを正しく理解していただくことを大切にしています。技術的にできることをわかりやすく共有するとともに、業界全体が直面している課題も踏まえながら、NECの技術だからこそ提供できる解決策を論理的にお伝えするように心がけています。
Yuki T.:IT技術者にとって、バイオ実験を本質的に理解することや実験にかかる時間を想像することは容易ではなく、研究機関や製薬企業の質問意図が読み取れない場合もあります。そこをDaikiさんが的確に翻訳してくれるおかげで、システムに効率良く反映することができています。
Daikiさんをはじめ、AI創薬に取り組む上では各方面の専門家との連携が欠かせません。だからこそ、個々のスキルや人間性をリスペクトすることを常に心がけています。とくにその姿勢が重要になるのが、国内外のメンバーとの技術開発です。議論がまとまらない際は、一人ひとりの考えを尊重しながら、全員が納得した上で進められるように意識しています。
社内外の数多くの関係者が携わり、国籍や専門性の違いを超えて取り組むAI創薬の現場。前例のないミッションに挑む中で、3人はNECだから発揮できる価値を実感しています。
Saori T.:NECの強みは、大規模なゲノムデータ解析と独自AIを組み合わせ、創薬候補を効率的に見出せることです。また、自ら個別化がんワクチンの臨床試験に取り組んでいるため、実際の創薬現場で求められる視点を技術開発に反映できることも大きな特長だと思います。単なる技術提供にとどまらず、実際に患者さんへ薬を届けるために何が必要かを意識しながら技術を磨いていることが、NECならではの強みだと考えています。
Daiki M.:NECに入社して驚いたのは、自社でゼロからAIを構築できる高度な技術力があることです。さらに研究者のバックグラウンドが多様で、生物学を深く理解した上でAIモデルを設計できる優秀な海外メンバーも多数います。ITからライフサイエンスまで最先端の技術と知見を結集し、グローバルにAI創薬を推進できる環境は、NECならではだと感じています。
Yuki T.:独自のAI技術はもちろん、それを社会実装にまで導ける組織力があることが、NECとしての価値だと感じています。個々の専門性を発揮しながら、チーム一丸となって課題に取り組めることも強みです。「患者さんに薬を届ける」という同じ目的に向かい、高い志を持つメンバーと協力し合える環境があるのは、NECならではの特長だと思います。
同じゴールをめざし、チームで課題に向き合う。患者さんへの想いを原動力に乗り越えた壁

NECの強みであるAI技術や組織力を活かし、研究機関、製薬企業と共に創薬をめざす──この新たな試みに専門外から飛び込んだSaoriにとって、プロジェクトを統括するのは難易度の高い挑戦でした。
Saori T.:最初は創薬と免疫学の専門用語や概念を理解することに苦労しました。日本語でも十分に理解できていない内容を英語で議論する必要があり、海外の専門家とのコミュニケーションがうまく噛み合わないこともありました。ステークホルダーがあまりにも多く、課題の所在すらつかめない。そんな状況に焦るばかりでした。するとある先輩が「すべてを完璧に理解する必要はない。自分ができることを見極め、プロジェクトファーストで動くことが重要だ」とアドバイスしてくれたのです。
そこからは専門知識が足りないことを言い訳にせず、強い当事者意識を持って、プロジェクトがより良く進むために自分は何ができるのかを常に考えるようになりました。自分が最善を尽くしてもできないときは、素直に周囲を頼り、DaikiさんやYukiさんをはじめとする仲間に支えてもらいながら、困難を乗り越えることができました。
Saoriを専門的な立場から支えてきたDaikiやYukiも、大規模な共同研究プロジェクトを通じて新たな挑戦と向き合ってきました。
Daiki M.:大学で研究していた際は個人の裁量が大きく、自分のペースで研究を進める場面が多くありました。一方、今回のプロジェクトでは、社内外の多様なメンバーと連携して研究を進めています。そのため、それぞれの専門性を活かしながら協力して成果につなげていく進め方は、私にとって新たな学びとなっています。
また、免疫学を専門としてきた私にとっては、NECのAI技術やシステムへの理解を深めつつ、それを研究にどのように活用できるのかをイメージすることが最初の大きな挑戦でした。そこで、過去の資料を読み込むだけでなく、Yukiさんや海外メンバーとの議論を重ねながら理解を深めていきました。
現在も学び続けている最中ですが、そうした積み重ねを通じて、免疫学の知見とAI技術を結びつけながらプロジェクトを進められるようになりました。異なる分野の知識を融合していくことで、より高度な検証や新たなアプローチの検討につながっていると感じています。
Yuki T.:技術担当として大変だったのは、難易度の高いAIシステムを構築しながら、品質も担保しなければならなかった点です。それを多様なバックグラウンドを持つ国内外のメンバーをリードしながら進めるのは、調整事項も多く一筋縄ではいきませんでした。
その中でより良いシステムに仕上げるため、自らもバイオ領域を学び、意図したとおりにコードが記述されているかを地道に検証しました。そして、なぜその処理が必要なのかをDaikiさんたちと議論し、高品質なシステムを構築していきました。並行してクラウド予算の最適化や知財戦略にも携わり、Saoriさんと共にビジネスの視点で技術の活用を考えられたことも、自身の成長につながったと感じています。
チームで協力しながら課題を乗り越え、プロジェクトを推進してきた3人。薬を待つ患者さんへの想いが、困難に挑み続ける原動力になっています。
Saori T.:私が常に見つめているのは、「患者さんに薬を届ける」という最終ゴールです。より良い治療を届けたいという医療現場の先生方の純粋な想いに触れるたび、このプロジェクトの意義の大きさを実感しています。
その想いを実際の治療へとつなげるためには、研究だけでなく、知財戦略や事業性も含めて長期的な視点で考えることが重要です。患者さんに価値を届けられる技術や事業を育てていくとともに、継続的に価値を提供できる創薬事業の実現に向けて尽力していきたいと考えています。
Daiki M.:私は実験を通じてAIの予測性能の高さに驚き、あらためて生物学を深く理解して構築されたシステムであることを実感しました。NECが開発した最先端の技術を使い、異なる専門性を融合させながら1つのゴールをめざすのは、企業での研究ならではの醍醐味です。技術と人の力を活かし、患者さんに新たな治療の選択肢を届けるために創薬の実現に貢献したいと思います。
Yuki T.:患者さんや社会にダイレクトに貢献できる領域で、最先端のAI技術を活用できることに何よりのやりがいを感じています。創薬の分野は非常に変化が早いため、技術者としてスキルをアップデートし続けることが不可欠です。日々研鑽を重ね、創薬の実現を支えていきたいと思います。
培った知見を、次のイノベーションへ。AI創薬の未来を拓くため、挑戦を続けていく

社内外のステークホルダーと共にめざす、「患者さんに薬を届ける」という最終ゴール。その実現に向けて、3人はそれぞれのフィールドで挑戦を続けていきます。
Saori T.:創薬を実現するだけでなく、事業を持続的に成長させていくためにも、知財戦略や契約関連の専門性をさらに深めたいと考えています。そして将来的には、新たな価値の創造につながる共同研究のスキームやパートナーシップの在り方そのものを、自ら提案できるようになることが目標です。政府機関や国際機関との協業経験で培った、多様な関係者を巻き込む力や最後までやり抜く情熱を活かし、医療の発展に貢献したいと思います。
Daiki M.:まずは現在進行しているプロジェクトにおいて、基礎研究の成果を確実に次の開発段階へと進めたいと考えています。その先は、NECに眠っている高度なIT技術の中から、まだ誰も気づいていないような生物学への応用可能性を見つけ出すことが目標です。免疫学の観点からAIの新たな活用方法を考え、創薬事業の成長に寄与していきたいと思います。
Yuki T.:私もAIシステムの設計・開発を通じ、実際に社会に貢献できる成果を出すことが目下の目標です。そして長期的には、今回のプロジェクトで培った大規模データ解析の知見を活かし、次世代のAI創薬を支える新たな技術の開発にも取り組みたいと考えています。Daikiさんと協力しながら、治療の選択肢を広げるためのチャレンジをこれからも続けていきたいと思います。
それぞれの志を胸に、未来に向かって挑戦を続けていく3人。AI創薬の最前線を経験する中で、プロフェッショナルとして成長できるNECの環境に大きな可能性を感じています。
Yuki T.:技術者として最先端のAI技術を磨きながら、社会課題の解決に貢献できることがNECの大きな魅力です。社員の挑戦を支援してくれる風土があるため、キャリアの幅を広げたい人にとって理想的なフィールドです。技術そのものが好きで、その力を活かして世の中の役に立ちたいという情熱を持つ方が、新たな仲間として参加してくださることを期待しています。
Daiki M.:免疫学の研究者だった私がNECに入社する機会を得られたのは、創薬をはじめ企業として常に新たな領域に挑戦し続けているからこそです。その風土を活かしてさまざまな経歴を持つ人材が活躍しており、多様性を重視する環境があることも特長だと感じます。自身の枠を超えて貪欲に学び、グローバルな舞台でキャリアを積みたいと考えている方なら、大きく成長できる環境です。
Saori T.:NECは127年の歴史がありながら、非常にイノベイティブな企業です。創薬事業へも、定款を変更してまで本格参入するほどの柔軟性があり、組織として変わり続けています。その中で社員も変化を恐れず挑戦でき、私のように異分野から新たなキャリアを築くことも可能です。患者さんに薬を届けたいという揺るぎない情熱と、高い倫理観を持つ方と共に、AI創薬の未来を切り拓いていけることを楽しみにしています。
※ 記載内容は2026年7月時点のものです