社会に影響を及ぼす仕事がしたいと、
実力に惹かれ、アカデミアからNECに転身。
アカデミア(※1)で専門に研究していたのは“ヒューマンロボットインタラクション”。幼い頃に見た日本のロボットアニメが、ロボティクスに興味を持ったきっかけでした。もともと面倒くさがりな性格で、いろんな面倒な作業をロボットで自動化できれば、人間が発揮できる能力を最大化できるのではないか。そんな世界の実現を夢見て、自動化技術で世界をリードしていた日本への留学を決めました。京都大学では博士号を取得。ロボットがAIで模倣学習するアルゴリズムの開発などで成果を上げました。
しかし、アカデミアで研究を重ねていくうちに、徐々に満たされない気持ちを覚えるようになりました。アカデミアでは学術の最先端に触れられるものの、将来に向けての基礎研究ばかり。自分がアウトプットしたことがすぐに社会で役立つわけではありません。自らイノベーションを巻き起こし、社会に直接影響を及ぼす仕事がしたい。そんな想いが募り、産業界への転身を考えていたとき、産業技術総合研究所のプロジェクトでNECの研究者と協働するチャンスがありました。共同研究で感じたのは、NECの技術レベルの高さ。IT企業はエンジニアリングが中心で、リサーチに関してはアカデミアがリードしている。そんな先入観を変えてしまうほどの体験でした。ここでなら、高度な研究ができる。そう確信できた瞬間、NECへの入社を決意していました。
※1 アカデミア:academia。学究的な世界や学界を意味する。
自動交渉AIの実用化に挑む。
世界トップレベルの研究者と協業。
NECに入社してから手がけているのは、自動交渉AIの研究開発。これは企業間での取引、たとえばメーカーがサプライヤーから部品を調達する際、その価格や納期の交渉をAI同士で行い、お互いにとって最適な条件を瞬時に導き出すことを目指しています。人間が行うと大変な労力や時間を要する交渉事を、AIで効率化し、最後の意思決定だけを人間が行う。そうすれば、浮いたリソースを本来とりくむべきコアな仕事に振り向けられる。まさに私が望んでいた、仕事の効率を最大化する取り組みです。私はプロジェクトをリードする立場で、この難易度の高い自動交渉AIの実用化に、業界でいち早く挑戦することができました。
自動交渉AIのアルゴリズムの研究を進めていくために、アカデミアとも連携しています。NECは想像以上にオープンな環境で、世界トップレベルの研究者とも積極的にコラボレーションしています。私もこれまでマサチューセッツ工科大学のMark Klein博士やブラウン大学のAmy Greenwald教授との共同研究を経験。私が思いつかなかった発想からアルゴリズムを導き出すなど、彼らとの「共創」で新たな気づきをたくさん得ることで、自動交渉AIを大きく進化させることができました。NECに参画してからも最先端を切り拓く研究開発を追求することができ、たいへん充実したキャリアを重ねています。
スタートアップのようなスピード感で
社会の変革を加速させていきたい。
自動交渉AIを企業間取引で真に機能させるためには、サプライチェーンに関わる多数の企業に活用してもらわなければなりません。そのためのプラットフォームをNECが主導して構築しており、これから実証実験を進めていきます。自動交渉AIの価値を多くのユーザーに理解していただき、社会に実装し国際標準化を目指すことは大きなチャレンジであり、大きなやりがいを感じています。こうして自分の研究成果を最短距離で社会に送り出せるのは、NECに身を置いているからこそ味わえる醍醐味です。
私たちは、自動交渉のための独自プラットフォームの構築のみならず、アカデミアと産業界の両方でテクノロジーの認識と浸透を高めるための取り組みを行っています。たとえば、IIC(※2)の一部として自動交渉の検証環境を構築。「eNegotiation」と呼ばれるUN/CEFACT(※3)プロジェクトのもと、自動交渉を推進するための国際プロトコルに積極的に取り組んでいます。さらに、私たちNECが協賛する「SCML(Supplyチェーン管理リーグ)」は、2019年から「国際自動交渉エージェント競技会(ANAC)」の一部として開催されており、IJCA(※4)において毎年開催されています。
ここには、アカデミアの世界にありがちな「序列」もなく、研究者がフラットな関係で互いの意見を尊重しながら研究開発を進めることができる。チームで目標に向かうスタイルにとても心地良さを感じています。さらにダイバーシティが当たり前。日本語が話せなくても困ることありません。まさに、自分が持てる力を存分に発揮できる環境です。
NECは高度な研究開発力をはじめ豊富なリソースを持ち、社会を変えるポテンシャルを大いに秘めた企業だと肌で感じています。一方で巨大な企業であるため、動きが遅くなりがちであることも事実です。NECにタートアップ企業のようなスピード感とダイナミズムをもたらし、社会の変革を加速させていく。そこに貢献することも自分の使命だと思っています。ビジネスの現場にAIを展開することで、社会全体を効率的にしていく。その実現がいま私の抱く大きなビジョンです。
※2 IIC:インダストリアル・インターネット・コンソーシアム(Industrial Internet Consortium:IIC)。2014 年 3 月に設立された世界最大級の IoT 推進団体。現在およそ140 の企業・団体が名を連ねる。
※3 UN/CEFACT:United Nations Centre for Trade Facilitation and Electronic Business、貿易簡易化と電子ビジネスのための国連センター
※4 IJCA:人工知能(AI)研究に関する世界で最も権威ある会議。