NEC自身をゼロ番目のクライアントとして、DXを実践する「クライアントゼロ」。成功も失敗も含め、変革を通じて得た「活きた」知見をお客様に紹介する取り組みが進められています。その新たな挑戦は、NECをどう変えるのか──コーポレートITシステム部門のDaisuke B.とSeika F.が語ります。
社会価値創造型企業への転換をめざして。NECの変革から始まった「クライアントゼロ」。

NECの社内ITを担うコーポレートITシステム部門。その中にある経営システム統括部 IT戦略企画グループで、Daisukeはディレクターを務めています。
Daisuke B.:IT戦略企画グループの責任者として、私の役割は大きく3つあります。1つめは部門全体の会議体の設定や部門トップ層の支援、2つめはIT戦略の企画推進やガバナンス、そして3つめが、自社をゼロ番目のクライアントとして社内DXを実践する「クライアントゼロ」の考え方のもと、社内DXの事例を取りまとめお客様に紹介する営業支援や社内外への発信活動を通じ、NECの実践知をわかりやすく伝えるインテリジェンス機能です。
同じグループに所属するSeikaは、インテリジェンス機能として営業支援を担当。「クライアントゼロ」に関する新たな取り組みをお客様に紹介しています。
Seika F.:「クライアントゼロ」の実践例を活用した営業支援の件数は着実に増えています。まだ関係構築ができていないお客様に対し、NECのケイパビリティを訴求するためのきっかけづくりとして活用が加速している状況です。
しかし、件数は多いものの、その後の商談成果が見えていない・追えていないという課題がありました。そこで現在、営業支援における「クライアントゼロ」の貢献度を可視化するプロジェクトを進めています。データを見える化し、ファクトベースで成果を分析することで、営業支援活動のさらなる価値向上をめざしています。
社内DXの実践知をリファレンス化し、お客様の課題解決に活かすべく取り組みが進められている「クライアントゼロ」。もともとNECがこの考え方を導入した背景には、2000年代以降の経営危機がありました。
Daisuke B.:当社が強みとしていたパソコンや携帯電話事業が2000年代から苦戦し、株価が100円を割り込むなど危機的な状況に陥りました。社会価値創造型企業への転換をめざして事業の立て直しを図る中、NECがカルチャーそのものの変革に着手することになったのが2018年です。
当時はDXが台頭し始めた時期で、事業変革の中では社内のデジタル化も重要な課題でした。NECが生き残るために、デジタル技術を使って会社をどう変えていくのか。そうした会社の課題に対し、私たちコーポレートITシステム部門は社内DXを推進していきました。
そして単なる業務プロセスのデジタル化にとどまらず、デジタル技術を活用するカルチャーの醸成から、会社全体の仕組みまで、かなり広いスコープで変革が推進されてきています。
その過程において、NECは外部の最先端テクノロジーを積極的に導入。変革のためにDXを実践する中で、さまざまな知見やノウハウが蓄積されていきました。
Daisuke B.:成功だけでなくうまくいかなかった経験も含めてNECの実践知をお客様にご紹介すると、予想以上に反響がありました。同じような課題を持つお客様にとって、私たちの「活きた」実践知には大きな価値がある。
その気づきから、「クライアントゼロ」の考え方にもとづく取り組みが本格化していきました。自社の課題を起点に、本気で変革に取り組んできたNECだからこそ、提供できる価値があると考えています。
2024年に発表された新事業ブランドで、戦略策定から実装まで一貫して支援する新しい価値創造モデルである「BluStellar(ブルーステラ)」においても、「クライアントゼロ」は重要な位置を占めているとDaisukeは語ります。
Daisuke B.:「BluStellar」の中にある「BluStellar Scenario(ブルーステラ シナリオ)」にも、「クライアントゼロ」の取り組みが活かされています。
お客様のニーズに応じた製品やサービスを提供するだけではなく、お客様の経営課題に寄り添い、共に最適なソリューションを導き出していく、そしてお客様を伴走支援する上でも、NECが実際に壁にぶつかり、乗り越えてきた中で培った実践知の価値は大きいと感じています。
経営層の本気が生むリアリティ。自社の課題を起点とする「クライアントゼロ」の価値。

「クライアントゼロ」の考え方のもとで実践する社内DX。その中で得られる経験やノウハウの価値を、Seikaは営業支援の現場で実感しています。
Seika F.:営業支援を行う中で感じるのは、「クライアントゼロ」が生み出すリアリティの力です。私はCIO(Chief Information Officer)や部門長などトップ層の営業支援を担当する機会が多いのですが、CIOや部門長は自社の成功体験だけでなく、それまでの苦労をありのままお客様にお話ししています。
お客様に刺さるのは、やはりそうした等身大のストーリーです。お客様との関係づくりにおいても、リアリティに基づくコミュニケーションが活かされていると感じます。
Daisuke B.:リアリティが生まれるのは、経営層が本気で変革に取り組んでいるからだと言えます。その象徴の1つが、リファレンスオフィスです。NEC本社ビルの24階には、社内のDXをお客様に体感していただけるリファレンスオフィスがあります。
社内ITシステムやサイバーセキュリティ、会議室の利用状況などを可視化した巨大なダッシュボードの近くにはCIO室があり、隣では普段通り業務のディスカッションが行われています。そうした日常業務に溶け込んだDXの実践例を、お客様にリアルに体感していただけることが特徴です。
このリファレンスオフィスは、「クライアントゼロ」に取り組んだ結果としての産物だと言えます。
自社を変革するために、経営課題に真正面から挑む「クライアントゼロ」。その姿勢を体現した取り組みの1つが経営コックピットです。
Daisuke B.: 経営コックピットは、経営者が見たいデータを一覧化しているものです。そこには、ファイナンス、プライスモニタリング、サプライチェーン、ITシステム、サイバーセキュリティ、エンゲージメントなどあらゆる情報が集まっています。
社内のあらゆるプロセスがデータ化され、一元的に管理できるようになり、これが実現されました。データに基づく戦略立案や意思決定が可能になるなど、大きな成果を生み出しています。
こうしたさまざまな「クライアントゼロ」の取り組みを行うことができたのは、ITを推進する組織体制の整備にも注力してきたからです。
Seika F.:これまで社内の情報システム部門には、ITガバナンスの強化や戦略の立案を担う部隊だけがNEC本体にいて、開発や運用の部隊は情報子会社におりました。そこからグループ会社で開発・運用を担当するメンバー約800人をCIOの配下に集約し、企画から開発・運用まで一体で担える組織体制に変更したのです。こうして今では約1,000人という大規模な組織に成長しています。
以前は企画部門が提案しても、関係会社とのやり取りには事務作業が多く発生し、実際に取りかかるまでに多くの時間がかかるという課題がありました。しかし現在は同じ部門内に必要なメンバーがすべてそろっているため、横軸でプロジェクトチームを組み、アジャイルに開発を進めることができます。
また、CIO配下の組織となったことで、CIOの声が直接届きやすくなったことも大きな変化です。こうした組織変更により、「クライアントゼロ」の取り組みがさらに加速していると感じます。
社長直轄プロジェクトとしてAIエージェントを開発。組織横断で20以上のテーマを推進。

企画から開発・運用まで一貫して社内でDXを実践できる組織体制により、加速する「クライアントゼロ」の取り組み。最近ではAIの活用による課題解決に積極的に取り組んでいます。
Seika F.:AIの活用も、以前はそれぞれのチームやグループ会社などで個々に取り組んでいたため、全社的な成果につながりにくい状況でした。そこで現在は社長直轄のプロジェクトとして、AIエージェントの開発を進めています。
社長の声をダイレクトに反映しながら、法務などさまざまな領域において課題の解決に向けた取り組みが進行中です。こうした横断的な活動は現在の組織体制だからこそ実現できることであり、AIの領域においてもその強みが発揮できているのを感じます。
組織体制と豊富な専門人材を活かし、AIエージェントにおいては現在20以上のテーマが進行しています。
Seika F.:たとえば営業変革の領域では、アカウントプランニングでAIの活用を進めています。お客様の有価証券報告書などさまざまな公式情報をもとにSWOT分析を行い、最適な提案をAIがレコメンドする仕組みを構築し、社内での利用を始めています。
さらに経営マネジメントの領域で進行中なのが、「分身AI」です。社長兼CEOである森田の講演や社内会議などでの発言内容を学習させ、それに基づくレビューやフィードバックを可能にしました。
今後もさらに経営陣の「分身AI」を増やすことができれば、現場レベルでいつでも経営目線のアドバイスを受けられる環境が実現できると考えています。
こうしたAIの活用事例をお客様へも紹介しながら、商品化に向けた支援を行っていきたいと語るSeika。
Seika F.:お客様にデモンストレーションをお見せすると会話が弾み、強い関心を持っていただいているのを実感します。企画段階で伺ったお客様の貴重な声を反映しながら、今後は商品化も見据えて支援活動を続けていきたいと思います。
こうして順調に活動を広げ、昨年度の営業支援件数は一昨年の2.6倍に拡大した「クライアントゼロ」の取り組み。これほど現場に浸透した要因について、Daisukeは3つのポイントを挙げます。
Daisuke B.:1つめは、経営陣が覚悟を決めてトップダウンで号令をかけたこと。2つめが、企業価値向上に向けた長期ビジョンを明確にしたこと。そして3つめが、クイックウィンにより短期間で成果を上げたことです。
変革には時間も労力もかかるため、現場を変えるのは容易ではありません。だからこそトップが本気を示すだけでなく、成果がすぐに出る取り組みから始め、変革の効果を実感してもらうことが重要です。この成功体験の積み重ねが、長期ビジョンの実現につながっていきます。
先ほどのAIエージェントの根底にあるのも、このクイックウィンの考え方です。まずは効果が見えやすい業務から着手することで、組織全体の変革マインドを醸成しています。
そして失敗を恐れないカルチャーの醸成も、クイックウィンを実現する上で重要な要素です。「クライアントゼロ」の取り組みが始まった当初から、「試してみてうまくいかなかったことも成果である」というトップメッセージが繰り返し発信されてきました。トップが自ら変革に取り組み、メッセージを発信し続けたからこそ、現場の意識が変わっていったのだと感じます。
「クライアントゼロ」に終わりはない。変革を続けながら、社会価値の創造に挑む。

営業支援の領域を中心に、「クライアントゼロ」の取り組みを推進してきたDaisukeとSeika。社内DXの恩恵を受ける立場としても、変化を実感しています。
Daisuke B.:とくに実感が大きいのは、顔認証により職場のあらゆるサービスを利用できるデジタル社員証の導入です。両手に荷物を持っていても、そのまま歩くだけでゲートを通過できます。こうした社内DXが、より働きやすい環境づくりに役立っていると感じます。
Seika F.:私も同様で、業務中に社員証を使う場面は意外と多かったと導入後に気づきました。受付やゲートのほか、食堂の決済などもスムーズになり、こんなに利便性が向上するのだと、実際に経験したことで実感しています。
加えて、「クライアントゼロ」を推進する立場としては業務の最前線を経験できることも魅力だとDaisukeは話します。
Daisuke B.:社内DXを担当する私たちは、クイックウィンという形で最新のテクノロジーをいち早く試す機会があります。とくにAIなど、今後の働き方を大きく変える技術を、先んじてチャレンジできる機会はとても貴重です。こうした経験は、自身のキャリアにおいても大きな強みになると感じています。
Seika F.:デジタル社員証の技術においても、「クライアントゼロ」として、まず社内で試して私たちが便利だと実感した技術が、お客様の役に立ち、社会を変えていく。そんな未来にとてもワクワクしています。空港など身近なところでNECの顔認証技術が実際に使われているのを見る機会も多く、自社の技術を誇らしく感じます。
2人が実感している、「クライアントゼロ」による社内DXの成果。今後はそれをいかにお客様の課題解決へとつなげていくかが1つの大きなテーマです。
Daisuke B.:お客様に「クライアントゼロ」の実践知をご紹介する上でポイントとなるのは、最新技術がいかに優れているかということだけではありません。
まず、私たちの取り組みによって実際に何がどう良くなったのか、得られた具体的な価値をお伝えすることが重要です。その上で、価値を得るためにどのような技術を活用したのかをお伝えできるように意識しています。
Seika F.:私も社内DXの取り組みをご紹介する資料を作成する際には、技術やサービスの特徴を説明するだけでなく、導入後の変化、さらにそこに至るまでの過程や工夫も盛り込むようにしています。
たとえばダッシュボードをご紹介する場合、どうやって社内の利用を促進し、定着させたかといった過程もお伝えすることで、導入後の具体的なイメージが湧くように心がけています。
社内DXの実践知を、お客様に提供していくためのプロセスが整えられつつある今、「クライアントゼロ」で描くビジョンを2人は次のように語ります。
Seika F.:まずは営業支援における「クライアントゼロ」の貢献度を可視化する取り組みを推進することが目標です。そのためにも、営業チームとの連携を深め、現場のニーズや課題を把握したいと考えています。
私が「クライアントゼロ」を推進する中で感じるのは、とても“NECらしい”取り組みだということです。NECには、成功も失敗も率直に共有し合えるカルチャーがあります。だからこそ「クライアントゼロ」の考え方が生まれたのだと思います。
社内DXの最前線に立ち、すべての経験を糧にして学び合いながら進んでいける。こうした恵まれた環境を活かして、さらに活動を広げていきたいと思います。
Daisuke B.:NECは社会価値創造型企業として、お客様や社会に対して新たな価値をご提供する使命があります。そして経営層が発信しているのが「変わり続けることを、変えない」というメッセージです。つまり社内変革のために私たちが取り組む「クライアントゼロ」に、終わりはないと考えています。
新しいテクノロジーを取り入れ、働き方を柔軟に進化させながら、より良い会社をめざして変わり続けていく。そのプロセス自体が、社会価値創造の源泉になると信じて、社内DXを推進していきたいと思っています。
※ 記載内容は2025年5月時点のものです