プロジェクトの概要
「日本経済をリードするような大企業のお客様が抱える、きわめて高度な課題に応える新たなソリューションを創り出し、それをぜひ他の企業のお客様にも提供して世の中に貢献していきたい」。そんな志を強く秘めていた川邉だが、当時のNECは彼女の想いをかなえるだけの度量を持ちあわせてはいなかった。そんな状況に挫けることなく、川邉は自らを変え、周囲を変え、そして会社全体を変えるほどのインパクトを及ぼす仕事を成し遂げた。
起点 | 保守的な風土がチャレンジの妨げに。 顧客のニーズに応える新たなソリューションを、SE部門を巻き込んで創り出そうとチャレンジするものの、周囲からの協力がなかなか得られず、やりたいことがかなわなかった。 |
課題 | 周りを動かすために自らを変える。 足りない力を補いたいと通っていた大学院でリーダーシップやマネジメントを学んで大きな気づきがあり、自分の行動をあらためる。あるベテランSEが彼女の想いに応えてパートナーに。 |
解決 | 想いを伝えて社内を巻き込んでいく。 前例のない、AIを駆使した「モノの顔認証」によるお客様の生産現場の品質管理ソリューションを、自らが起爆剤となって社内のSE部門と研究所まで巻き込んで実現。 |
結果 | 会社を変えていく風穴が開いた。 このプロジェクトが評判を呼び、経済紙の記事にも取り上げられる。社内にも影響を与え、想いを訴えて新しいことに挑戦していくことを促すような風土が醸成され始める。 |
気づき | NECには果てしないポテンシャルがある。 優れた技術を持ち、ヒト・モノ・カネの資源も豊富なNECなら、組織の枠を超えて社内ですぐに連携できる体制になれば、これからどんな状況でも勝ち抜いていけると実感。 |
社内で上げた声。しかし周囲から反応はなかった。

その頃、川邉は無力感に襲われていた。
NECに入社して8年。法人向けのソリューション営業でキャリアを積み、日本を代表するような超大手メーカーを担当していた彼女。お客様のモノづくりの現場にまで入り込んでニーズを探り、既存の製品では対応できないとわかると、SE部門を巻き込んで新しいソリューションを創り出そうと奮闘。そして、それを自分のお客様だけではなく、社内の他のお客様にも展開できればと考えていた。しかし、SE部門に懸命に働きかけても彼女に呼応する声は上がらなかった。
川邉:以前のNECは真面目過ぎたんだと思います。リスクは極力とらない。失敗したらお客様や会社に迷惑がかかるという考えが強く、枠を超えようとしなかった。そうした雰囲気が私はとても残念でした。
想いが伝わらないのは伝え方が拙いからだ。

このままではNECは停滞してしまう。社内が動かないためチャレンジングな提案ができず、ベンチャー企業に案件を奪われることも相次いだ。もうNECを辞めてしまおうとさえ思ったという川邉。そんな彼女を奮い立たせたのは、仕事の傍ら通っていた大学院での経験だった。
川邉:お客様が非常に頭の切れる方々で、みなさんの思考についていけるよう、一念発起して社会人大学院に通ったのです。そこでリーダーシップやマネジメントについて学び、大きな気づきがあった。チームが同じ方向に向かないのは、自分の伝え方が拙いからだと。
それから川邉はいっそう積極的にSE部門に関わり、時には相手の業務まで自ら担い、想いを伝えていった。そんななか、あるベテランSEが川邉の熱意に応えてくれた。
挑むは「モノの顔認証」。同志の力を得て実現。

川邉がそのお客様と、ともに実現したかったのは、先方の工場で生産される数万種類もの素材製品をすべてAIで個体認識して品質管理すること。
川邉:品質管理にお客様は膨大な手間をかけられていました。何とかそれを自動化できないかと、ベテランSEの方に相談してみました。最初は難色を示されたものの、想いを伝え続けると力を貸していただけるようになった。きっとその方も心のどこかで『変わらなければ』という意識があったのだと思います。
川邉らが挑戦しようとしていたのは、いわば「モノの顔認証」。前例のないシステムだったが、パートナーとなったベテランSEとともに研究所にアプローチしてAI研究者たちの協力を得て、いままでにないソリューションを創り上げてお客様に納めることに成功したのだ。
臆病風が吹いていた社内に、新しい風が吹きはじめた。

川邉のこの取り組みは社内外で大きな評判を呼び、経済紙の記事にも取り上げられたほどだ。
川邉:強い想いをもって周りを巻き込めば、組織の枠を超えていろんな人が動き、自分のやりたいことがかなう。若手の後輩の中には、新しいことに挑戦するのに臆病になっている人も多かった。私もかつてはそう。でもいまは違う。彼らに『やればできるんだ』と背中を見せて示すことができたのは、とても意義のあることだったと思います。
そして川邉は、更なるアクションを起こして周囲を巻き込もうとしている。この「モノの顔認識」による品質管理のソリューションを、より多くのお客様に提供するべく、社外のパートナーや他営業担当者にもその価値を解いて、全国に波及させていこうとしている。
想いがあれば個人でも会社を動かせる。

川邉の『変わらなければ』という想いは、経営層が抱いていた想いとも同じだった。いまNECはトップのリーダーシップのもと、チャレンジを大いに後押しする風土に変わりつつある。
川邉:私は以前、ITベンチャーの台頭に危機感を抱いていましたが、最近は負けるわけがないという自信に変わっています。NECには優れた技術があり、ヒト・モノ・カネの資源も豊富に揃っている。誰かが声を上げれば、さまざまな組織が協力しあいすぐにNECが秘める能力が存分に発揮される。そんな体制が整えば、どんな状況でも勝ち抜いていけると思いますし、事実、そこに近づいている実感があります。
川邉は確信した。これからのNECは、想いがあれば個人でも会社を動かすことができ、やりたいことは何でもできる場だと。