NEC Orchestrating a brighter world
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世界一の精度を誇る顔認証で腫瘍を発見。AIでガンの早期発見を支援せよ――内視鏡画像解析AI

池田 仁

社会公共ビジネスユニット
デジタルヘルスケア事業開発室
室長 兼 事業責任者

池田 仁

2018年にキャリア入社。新卒で外資の医療機器メーカーに入社。グローバルな製品開発からR&Dの統括者までを経験。NECでは「内視鏡画像解析AI」プロジェクトの統括責任者を務める。

大塚 昌昭

社会公共ビジネスユニット
デジタルヘルスケア事業開発室
Engineering & Program Office Director

大塚 昌昭

2019年キャリア入社。新卒で家電メーカーに入社。その後、医療機器メーカーに転職しグローバル製品開発における機構設計やプロジェクトマネジメントを経験。NECでは製品開発責任者を務める。

奥津 元靖

社会公共ビジネスユニット
デジタルヘルスケア事業開発室
Lead System Designer

奥津 元靖

2007年に新卒入社。大規模システムの保守を3年ほど担当。その後、電子カルテの製品開発に携わる。そして、現在は「内視鏡画像解析AI」プロジェクトの設計の責任者を担当。

※2022年3月公開。所属・役職名等は取材当時のものです。

腫瘍の「顔つき」をNECの技術で見極められないか。

世界で高く評価されているNECの技術に「顔認証」がある。出入国管理など国家レベルのセキュリティ、無人店舗での決済など、社会に新たなソリューションを送り出している。この顔認証を駆使して、NECはいま「医療」のフィールドで新規事業の創出に取り組んでいる。

プロジェクトがスタートしたのは2015年。きっかけは、国立がん研究センターの内視鏡医からの「大腸の内視鏡検査に顔認証技術を活用して、がんの前段階である腫瘍を発見できないか」という相談だった。
内視鏡医が言うには、腫瘍にも「顔つき」があるとのこと。顔認証技術世界一のNECなら、腫瘍の顔つきを特定し、見つけられるのではないか。そんなオファーが寄せられ、国立がん研究センターとの共同研究がスタート。そこに参加することになったメンバーの一人が奥津だ。
彼は新卒でNECに入社。システムエンジニアとしてキャリアを重ね、過去には病理AIの製品開発にも携わった。その経験を買われてこの共同研究にアサインされた。

奥津:顔認証技術でどうすれば大腸の腫瘍を発見できるのか。非常に難しいチャレンジでした。さまざまな壁を乗り越え、成果が少しずつ形になり始め、ようやくスタートラインが見えてきた。その頃は、画期的な研究成果を世の中に送り出せる期待と、本当に製品化できるのかという不安が入り混じった気持ちでした。

そして2018年、製品化に向けてのプロジェクトが正式に立ち上がる。このタイミングでNECからオファーを受けて転職してきたのが池田だ。外資系メーカー出身。さまざまな医療機器の開発プロジェクトを率いた経験を持つ彼は言う。

池田:NECが医療分野に進出し、新事業を興すことに大きな可能性を感じました。そこに私のキャリアが活かせるのではないかと考え、NECへの入社を決意したのです。

未知のモノづくりに挑むために。従来型から、ジョブ型組織への変革。

池田はこれまでの経験を買われ、プロジェクトの統括責任者を託された。しかし、すぐに大きな問題に直面する。

池田:医療機器というのは製造販売するために国の認可が必要です。しかしNECは医療機器を手がけた経験がなく体制がまったく整っていませんでした。何より大きな課題は、NECのプロジェクトの進め方。新規事業領域にも関わらず、役割を決めずにメンバーができるタスクを割り当てており、その形では製品品質も開発スピードも上がらない。
そこでプロジェクトに必要な職務と役割を明確にして、人材をアサイン。それぞれが裁量と責任を持って仕事を遂行する、いわゆる“ジョブ型”の組織にすべきだと経営に提言しました。

ジョブ型組織が世の中で取り沙汰される前に、池田は大胆に組織の変革と再構築に着手した。
その頃、新たにプロジェクトに加わったのが大塚だ。彼もかつて外資系の医療機器メーカーで新製品の開発を経験した後、大きな志をもってNECに転職してきた。

大塚:私はさまざまな企業で技術者としてキャリアを重ねてきましたが、日本から世界に革新的なプロダクトを提供したいという想いがありました。それを果たせる場としてNECには魅力を感じました。NECの強みである顔認証技術を駆使した医療機器なら、きっと世界でも通用するはずだと思ったのです。

大塚はこのプロジェクトで製品開発チームを率いることになったが、当初大きなギャップを覚えた。

大塚:率直に言えば、全員“つくらされている”印象でした。WISE VISIONはNECのプロダクト、つまり我々が仕様を決める。未知の領域であったため少し臆病になり、みんな当事者意識が欠如していました。それでは広義の意味で高品質な製品など生み出せない。
私は過去の経験から、製品開発における思考プロセスや設計管理プロセスなどの指導、標準化を行いながら開発を進めていきました。

一人ひとりが責任を負い、議論を重ねて難題を乗り越えていく。

池田や大塚をはじめ、プロジェクトを成功させるためにキャリア入社した高度な専門人材が、社内に大きな変革をもたらした。この大きな波の中、現場で奮闘していた奥津はこう振り返る。

奥津:ジョブ型のプロジェクト運営など、最初はとまどいもありました。しかし、それぞれのメンバーが自分の役割に責任を持ち、それを果たしていく上で問題が生じれば積極的に議論する。そして、互いにコミュニケーションを取って実行に移していくことで、チームのパフォーマンスがどんどん上がっていきました。

こうしてプロジェクトが自走し始め、池田は徐々に手応えを感じたという。
そして2019年4月、NECは「医療機器製造販売業」の許認可を取得。同時に、NECの未来を大きく左右する決断もなされた。

池田:この時、会社の定款が変更され、創薬も含めて医療関連事業に参入することが掲げられました。“医療”で新たな社会価値を提供していくことを公に宣言したわけであり、その第一弾となるプロジェクトを担う我々のモチベーションも大いに高まりました。

プロジェクトはさらに加速し、最大の関門ともいえる臨床試験を迎えた。ここで確かな成果を上げ、医療機器として国の承認を得なければならない。だが、想定していた通りには進まずに、一時は暗礁に乗り上げたかに思えた。奥津は当時をこう振り返る。

奥津:問題を解決できず『このままでは発売できない』と悲観した時もありましたが、池田さんは『必ず突破できる』と絶えず我々を鼓舞し、メンバーの総力を結集してクリアすることができた。NECには優秀な人材が揃っているので、あきらめずに知恵を絞りつづければ、必ず答えを見つけ出すことができる。あらためてNECが秘める底力を感じましたね。

そして無事に国の承認を得て、2021年1月、「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」がリリースされた。

医療にさらなるイノベーションを起こして、世界を変えていく。

この内視鏡画像解析AIは、悪性腫瘍になる可能性のある病変の早期発見を支援し、早期治療につなげることができる。つまり、がんの死亡率を下げる可能性を秘めている。まさに医療の現場に新たな価値をもたらすソリューションだ。

奥津:現場の医師の方々から、直に評価の声をいただいた時はやはりうれしいですね。本当に人々に貢献している製品を創っているのだと実感できる時が、この仕事の何よりのやりがいです。

内視鏡画像解析AIのリリースは、ネットニュースのトップ記事として取り上げられるなどメディアからも大きな注目を集めた。

池田:NECがAI分野で医療に参入したのはインパクトがあったようです。さまざまなメディアに取り上げていただき、私も取材対応に追われました。NECへの期待の大きさをあらためて感じましたし、これからも応えていかなければならないと気持ちを新たにしました。

以降、このプロジェクトで食道がんにも対応する内視鏡画像解析AIを開発しているほか、大腸の病変が腫瘍性である可能性を判定するAIも新たに開発。続々と製品ラインナップを拡充している。
しかし、まだまだチャレンジすべきことがたくさんあると大塚は言う。

大塚:これからさらに新しい製品を市場に投入していく方針ですが、まだまだ期待されるスピードで製品化できる体制が整っていない。チームの機能をいっそう強化して、市場が求める製品をタイミングよくリリースできるようにしたいと考えています。

と大塚は先を見据えている。そして事業を率いる池田は、NECの医療ソリューションの可能性は無限大だと語る。

池田:現在はAIによる診断が中心ですが、NECのアセットをもってすれば予防にも予後にも貢献できる。また、我々が提供するソリューションは日本だけではなく、グローバルでも求められるもの。これからこの事業がどのように発展していくのか、私自身ますます楽しみです。

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