長年の夢を叶えるための進路変更
私は、米国ルイジアナ州の州都バトンルージュの出身です。大学生の頃はニューオーリンズのチューレーン大学に在籍し、神経科学とアジア研究を専攻していました。医師になろうと思っていたのですが、両親やおじ、いとこは、皆が弁護士で「まさか?弁護士になるに決まっているよ!」と言われました。結局は、それが正解でした。
大学卒業後、メディカルスクールに入る前に6か月の休みを取って、日本で働きながら生活していました。
大学のアジア研究専攻で日本の神話や歴史も学んでおり、元々日本に対する憧れが強く、結局は日本が大好きになってしまったことから、当初6か月間の契約で勤務していた大阪府堺市立上野芝中学校にも、3年間勤務することになりました。
この3年間の任務を終える頃、ゆくゆくは日本で暮らしたいと思うようになっていましたが、教師を続けたい訳ではありませんでした。熟慮の末、日本でのキャリア形成に必要な準備は、ロースクールに行くことだと確信しました。そのような経緯があり、家族の予言通りになった次第です。
日本に帰る道を模索
ロースクール在学中は、東京のテンプル大学ジャパンキャンパスで1セメスターを過ごしました。法学の学位取得後は、判事と緊密に連携する書記官職を2つ経験し、事件管理や裁判所見解の提出を支援していました。最初は、ニュージャージー州バーリントン郡上級裁判所衡平法部の書記官として、ポーラ・ダウ名誉判事の下で働いていました。第二の勤務地は故郷であるルイジアナ州バトンルージュ。そこでは、ルイジアナ州中地区連邦地方裁判所にてブライアン・ジャクソン名誉判事の下で働くという幸運に恵まれました。
2つの書記官職を退いてからは、就職先を見つけるのに少々苦労したこともあり、法学修士号(LL.M.)を取得することにしました。法務博士(JD)プログラムでは、国際法の授業を十分に履修しており、1セメスターだけでLL.M.を取得できたため、テンプル大学ジャパンキャンパスでトランスナショナルローのLL.M.を取得するため東京に戻りました。その後、アメリカでの就職が決まり2年間勤務しました。
その間に、東京でLL.M.取得に励んでいた頃に出会った教授の1人が、NECで働ける素晴らしいチャンスがあると連絡をくれたのです。私は日本に戻ることをずっと夢見ていましたので、まさに思いがけない幸運でした。募集要項には「訴訟経験のある人」とあり、まさしく私にぴったりのポジションで、即座にエントリーし、採用プロセスを経て、NECに在籍するに至っています。
コミュニケーションスキルの重要性
初めて日本で暮らしたときに不可欠だと実感したことの1つが、コミュニケーションスキルの上達でした。本当に上手に話せるようになるには苦難の道をたどる必要があります。来日前には日本語の授業を2セメスターしか受けたことがなかったので、他のコミュニケーション方法を考え出す必要がありました。誰もが容易に理解できる方法で言いたいことを伝えること、そして日本にいる間に築いたその他のスキルは、特に様々なタイプの人とのコミュニケーション方法を学ぶという点で、私のキャリアを通じて極めて重要なものとなっています。
書記官職に就いていた期間、そして法律事務所で法律家としてのキャリアを歩み始めていた頃は、インターンマネージャーを務めていました。その業務内容は、ロースクールに在籍している人たちに複雑な法律の概念を説明することでした。この種のコミュニケーションスキルは、現在もNECでの仕事に役立っています。私の日本語は日ごとに上達しているものの、克服しなければならない言語の壁は未だにあります。だからこそ、様々な概念をシンプルかつ効果的に伝える方法を考え出すことは極めて有用でした。それは、NECに入社する以前の経験全体を通じて磨かれたスキルなのです。
ダイバーシティと先進性、NECは二つの長所を併せ持つ企業
訴訟対応力の強化を目的として採用されたこともあり、私にとってNECはとても魅力的な職場です。訴訟や法廷手続の経験があり、知的財産やテクノロジーに関心を持ち、国際的な仕事をしたいという願望がありましたので、企業内訴訟チームの一員になれることは非常に魅力的でした。NECが現在重視していることの1つが訴訟分野の対応力強化で、募集へのエントリーは、有望なプログラムに最初から携われるチャンスだと思ったのです。それが、NECへの入社を決断した最大の理由です。
そして、NECを気に入ったもう1つの理由は、お堅い会社では無いということです。
NECは長い歴史を持つ日本の大企業でありながら、現代社会における多様な文化の違いを、とても寛容に受け入れ、理解している企業なのです。そのレベルは、入社前に私が想像していたものをはるかに上回っています。
ダイバーシティを尊重する柔軟な企業文化、そして、先進的なテクノロジーやソリューションを有する一流企業であること、二つの長所が生かされているNECで社員として働けることへの誇り、それこそが、NECをこれほどまでに魅力的な会社にしているのです。
これまでのキャリアをNECの仕事で発展的に活かす
私は主に訴訟管理などの仕事をしています。NECは日本での法的対応力を有していますが、訴訟の多くは海外、主にアメリカで発生します。日本以外での訴訟については、社外弁護士に依頼する必要があり、彼らが取り組んでいる事案の管理と事業戦略への反映が私の職務の一部です。私たちは社外弁護士と常にコミュニケーションを図っており、NECでの検討を目的とする事案関連の各種文書の草案を頻繁に送付してもらっています。チームメンバーと協力の上、それらを検討して注釈を施し、社外弁護士と話し合って最善の対応策を決めています。
同時に、数多くのアドバイザリー業務にも取り組んでおり、上司とのミーティングでは、何が起こっているのか?法律事務所のクライアントとして進むべき最善の道は何であるか?発生したすべての事案にいかなる対応をすべきかを常に話し合っています。
チームワークとワークライフバランスの実現
NECで働く同僚は、これまでの私のキャリアにおいて、最もチームワークを発揮できる仲間たちだと、十分な確信を持って言えます。私たちのチームは多くの厄介な問題やストレスフルな状況に対処しており、それらには大きな代償が発生する懸念もありますが、同僚は誰もが常に冷静沈着で落ち着いており、親切で理解があり、そして明るいのです。計り知れない重圧下にあることが多いにもかかわらず、他のチームメンバーにネガティブな影響を与えることが一切ありません。
同僚は話しかけやすく、趣味や特技、興味のあることについて、いつでも進んでシェアしてくれます。常に全員で一緒に仕事をしている感覚があります。NECの同僚はとてもオープンマインドですが、これは本当に新鮮に感じられます。このレベルでお互いを理解し、チームワークを発揮できるのは非常に良いことです。
ワークライフバランスも素晴らしいと思います。所属部門のメンバーが在宅でも勤務可能なのはとても良いことです。もちろん、週に何回か自発的に出勤するメンバーもおり、私もそうしています。アメリカでの訴訟を扱う場合には、時差の関係で日本の深夜や早朝に相手と話す必要があるため、夜遅くまでの勤務が必要になる場合もあります。ですが、それも頻繁にある訳ではなく、ワークライフバランスに支障をきたすほどではありません。あくまで通常業務の一部にすぎないのです。
同僚のサポートで試練を乗り越える
これまで直面した中で最大の試練は、いつまでも付きまとう言語の壁でした。社内システムを操作して、煩雑な事務手続きを完結させようとするとき、言語の壁が立ちふさがりました。しかし、ありがたいことに、この試練は素晴らしいチームメイトの支援によって克服できました。NECがより多様なキャリア人材の採用を継続して行い、特に所属部門がより多くの社外弁護士を採用することに関心を持つならば、社内システムには、日本語を第一言語としない人々でも対応できるような改善が必要だと感じています。
今後の抱負
NECで働くことは本当に楽しく、必要とされる限りは働き続けるつもりです。そして、今の私には2つの目標があります。1つは社内で昇進すること、もう1つは日本語を上達させることです。特に日本語に関しては、会議後に同僚からの補足説明を必要としないレベルにしたく思っています。また、NECへの直接的な貢献として、法務面におけるNECのさらなる強化に努めて行きたく思っています。それこそが、私が必要とされている理由なのだと理解しています。
大事なのは、むしろ知識ではなく人脈
もし、NECでのキャリア形成に興味があるならば、検討中の職務に携わるNEC社員や関係者とのコミュニケーションが一番重要だと思います。私の前職においても、関係する知り合いに連絡を取り、一緒にコーヒーを飲んだり、Zoomに参加したりを経て人脈を作ったからこそ得られたものです。大事なのは、むしろ知識ではなく人脈なのです。
毎年、出身のテンプル大学から、セメスターを履修するため、ジャパンキャンパスにやって来る学生たちと話をしてほしいと依頼されます。私は学生たちに、卒業しても常に教授と連絡を取り合うようにと言っています。それこそが、私がNECでの仕事を得た方法だからです。
大学教授の多くは本業を持ち、法律事務所のパートナー、企業の幹部、さらには採用担当者としても働いています。それゆえに、大学や大学院、ロースクールのクラスメイトたちと意識的に連絡を取り、それを絶やさないことが重要なのです。すべては人脈にかかっているのです。これは、就職活動をしているみなさんに対する私からの最大のアドバイスです。人間関係をおろそかにしてはいけません。特に、キャリアアップする頃に以前のクラスメイトたちがより高い地位の仕事に就いて採用権限を持ち始めると、人間関係は極めて重要になってきます。
日本でのキャリア形成におけるポイント
日本で働く理由は無数にありますが、重要なポイントとして、ネガティブ要因に目を向けることが挙げられます。 計画を立てる段階で、東京は他の都市よりも物価が高いと言われるでしょう。これはどの国、地域から日本に来るかにもよりますが、私の場合、実際にはアメリカでの前職よりも日本での可処分所得がはるかに増えています。また、特に、アメリカの法律事務所からNECのような企業に転職する弁護士にとって、日本での仕事はそれほど金銭的待遇が良くないのではと懸念される方もいるかもしれませんが、日本での生活の質は、アメリカにいた頃よりはるかに良いと思います。生活の質が上がるというポイントも考慮する必要があると思います。
もう1つ、よく指摘されるネガティブ要因は言葉の壁です。日本語が話せなければ日本では暮らせないと思っている方もいますが、日本では中学から高校まで英語が必修科目なので、ほとんどの日本人は英語を理解はできます(話すことには、抵抗があるかも知れませんが)。ですから、日本語が話せなくても何とか暮らすことはできます。ただ、日本語を学べば学ぶほど、経験はより深く豊かなものになっていきます。実際のところ、特に日本企業で働きたい場合には、日本で何とか暮らしていくことと、日本で成功することは明らかに違うと認識することが重要です。